基礎知識

仕込み水と名水|酒蔵が選ぶ水へのこだわりガイド

基礎知識

日本酒は、その成分の約8割が水でできているといわれるほど、水が味わいを大きく左右するお酒です。本記事では、酒蔵がこだわる「仕込み水」と、軟水・硬水の違いが酒質に与える影響について解説します。

仕込み水とは

仕込み水とは、日本酒の醸造過程で使用される水の総称です。原料の米を洗う、浸す、仕込みに使うなど、様々な工程で使われ、その水質が酒の味わいに大きな影響を与えるとされています。多くの蔵元が、敷地内の井戸水や、近隣の伏流水を使用しています。

軟水と硬水の違い

水は、含まれるミネラル分(カルシウム・マグネシウムなど)の量によって「軟水」と「硬水」に分けられます。一般的に、硬水で仕込むと発酵が活発に進みやすく、力強く辛口の酒質になりやすい傾向があり、軟水で仕込むと発酵が穏やかに進み、まろやかで淡麗な酒質になりやすい傾向があるとされています。

『灘の宮水』と『伏見の伏水』

記事62でもご紹介した兵庫県・灘の「宮水」は、ミネラル分を多く含む硬水として知られ、力強い辛口の「灘の男酒」を生み出してきました。一方、京都府・伏見の「伏水」は中硬水とされ、まろやかな「伏見の女酒」と称される酒質を支えてきました。同じ近畿地方でも、水質の違いが対照的な酒質を生み出す好例です。

軟水醸造法の発展|記事22との関連

記事22でご紹介した広島県は、明治時代に軟水でも安定して醸造できる「軟水醸造法」を確立した、近代吟醸酒発祥の地とされています。軟水の多い西日本の蔵元にとって、画期的な技術革新でした。

名水百選と日本酒

環境省が選定する「名水百選」に選ばれた水源の近くに蔵を構える酒蔵も多くあります。記事35でご紹介した静岡・神奈川の蔵元をはじめ、清らかな水を求めて山間部に蔵を構える例は全国各地に見られます。

仕込み水と酸度(記事25)は別の要素です

水の硬度は、発酵のスピードや力強さに影響しますが、記事25でご紹介した「酸度」は、主に麹や酵母の働きによって生み出される、米由来の成分です。両者は異なる要素ですが、組み合わさることで、それぞれの蔵元の個性的な酒質が生まれます。

名水・仕込み水にこだわる日本酒10選

軟水・硬水それぞれの個性が感じられる代表的な銘柄を10点ご紹介します。価格帯は720mlサイズを基準とした目安です。

商品名 蔵元・産地 特徴 価格帯
菊正宗 上撰 菊正宗酒造/兵庫県(灘) 「宮水」という硬水で仕込む灘の辛口酒。ミネラル豊富な水が力強い発酵を生む。 1,500〜2,500円
白鶴 まる 白鶴酒造/兵庫県(灘) 同じく宮水を使用する灘の代表的な蔵元。硬水仕込みならではのキレのある辛口。 1,500〜2,500円
月桂冠 上撰 月桂冠/京都府(伏見) 「伏水」と呼ばれる中硬水で仕込む、灘とは対照的なまろやかな味わい。 1,200〜2,000円
大吟醸 特製ゴールド賀茂鶴 賀茂鶴酒造/広島県 軟水でも醸造できる軟水醸造法発祥の地・広島の代表銘柄(記事22参照)。 2,500〜5,000円
八海山 特別本醸造 八海山酒造/新潟県 越後三山の雪解け水を仕込み水に使用。淡麗辛口の新潟らしい軟水仕込み。 2,000〜3,500円
真澄 純米吟醸 あらばしり 宮坂醸造/長野県 北アルプスや八ヶ岳の伏流水で仕込む、ミネラルバランスの取れた端正な味わい。 2,500〜4,500円
獺祭 純米大吟醸 旭酒造/山口県 錦川の伏流水を使用。軟水ならではのなめらかな口当たりが特徴。 3,500〜10,000円
磯自慢 純米吟醸 磯自慢酒造/静岡県 南アルプスの伏流水を使用。クリアな水質が華やかな香りを引き立てる。 3,500〜7,000円
黒龍 大吟醸 黒龍酒造/福井県 九頭竜川の伏流水で仕込む、上品でクリアな大吟醸。水の硬度が香りに影響する好例。 3,500〜10,000円
水と酒の飲み比べセット(軟水・硬水仕込み) 各蔵元 軟水仕込みと硬水仕込みの日本酒を飲み比べられるセット。水の違いを体感できる。 4,000〜7,000円

よくある質問

Q軟水と硬水、どちらが良い日本酒になるのですか?

どちらが優れているというものではなく、それぞれ異なる個性の酒質を生み出します。好みに応じて選ぶとよいでしょう。

Q仕込み水は蔵元によって全く違うのですか?

はい、井戸水や伏流水など、水源は蔵元によって様々です。同じ地域でも、蔵によって水質が異なる場合があります。

Qラベルに仕込み水の情報は書かれていますか?

商品によって異なります。記載がない場合は、蔵元の公式サイトで紹介されていることもあります。

Q水道水で日本酒を造ることはできますか?

法律上は可能ですが、多くの蔵元は、より良い酒質を求めて井戸水や伏流水にこだわっています。

Q水の硬度は日本酒度(記事17)に影響しますか?

間接的に影響することはありますが、日本酒度は主に糖分とアルコール分のバランスで決まるため、水の硬度だけで単純に決まるものではありません。

まとめ

日本酒の約8割を占める水は、軟水・硬水の違いによって酒質に大きな影響を与えます。灘の宮水(硬水)と伏見の伏水(中硬水)の対比のように、同じ地域でも個性が分かれることがあります。記事22・25・35・62と合わせて、仕込み水という切り口からも日本酒の奥深さを楽しんでみてください。

お酒は20歳になってから。飲酒運転は法律で禁止されています。妊娠中・授乳中の飲酒はお控えください。

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